石原慎太郎 ポップスターになっていく裏側で

<第2章 顔をさらすから身をさらすへ>

---3 ニューメディア誕生ラッシュで変わる文芸家像

②―――石原慎太郎の活躍の裏で  ニューメディアの誕生ラッシュ

 

石原慎太郎が『太陽の季節』で第34回芥川龍之介賞を受賞(1956)した時期は、テレビ局の開局、出版社系週刊誌の創刊のタイミングでもあった。

 

まず、映画界から見ておきたい。

日活(日本活動フィルムから改称)は、輸入商の集まりから京都で始まった(1912)。

松竹は、歌舞伎・演劇から映画へ参入してくる(1920)。

東宝は、阪急資本の宝塚歌劇の東京進出をきっかけに映画も手がけていく(1932)。

大映は、戦時中の統制化のなかで松竹系の新興シネマ・大都映画・日活の統合によって生まれた(1942*このとき永田雅一は初代社長に菊池寛を迎える)。

東宝は、戦後、東宝労働争議のなかから東宝から独立するかたちで生まれた(1947)。

東映は、東急資本の東横映画・太泉映画・東京映画配給が戦後合併し、始まった(1951)。

 

戦後、大映から分離した日活は、俳優が少なく、俳優の引き抜きを開始する。

その動きに対し、大映の社長・永田雅一の呼びかけ、東宝藤本真澄の推進によって、俳優の引き抜きを禁止した“5社協定”(松竹・東宝大映・新東宝東映)が結ばれた(1953)。

この頃、映画業界そのものは、「映画の日」を制定し(1956年12月1日)、大掛かりなイベントを行うなど、興隆を迎えている。

 

石原慎太郎の『太陽の季節』の映画化(1956)は、その日活で制作された。

水の江瀧子(滝子)(元・松竹歌劇団1期生)が日活とプロデューサー契約をしたのはその前年であり、『太陽の季節』に出演した石原の弟・裕次郎の登場は、当時、俳優の少なかった日活を救った。

石原慎太郎の登場は、そんなタイミングでもあった。

 

やがてテレビ局の開局ラッシュにあたる。

日活も協定に加わり、“6社協定”となり(1958)、俳優たちのテレビ出演に制約をかけていく。

このときが、日本の映画館の観客入場者数のピークであり、石原初監督となる東宝映画『若い獣』と同年でもあった。

それと入れ替わるように、石原映画で監督を務めた市川崑が、翌年から積極的にテレビドラマを手がけていく。

 

そのテレビ放送が、地上波として国内で初めて放送されたのは、1953年、NHK日本テレビになる。

2年後にはラジオ東京(現・TBSテレビ)が放送を開始。

その4年後には、NHK教育テレビジョン日本教育テレビ(現・テレビ朝日)、フジテレビジョンが次々と開局。

テレビ放送は、1950年代、一気に生まれたニューメディアだった。

 

さらに、この頃、ラジオ局の開局ラッシュ、雑誌の創刊ラッシュが起こる。

戦前、映画会社が増えていくなかで、新聞社が、『週刊朝日』『サンデー毎日』の週刊誌を創刊した(ともに1922年創刊*『文藝春秋』創刊はその翌年)。

こうしたニューメディアの登場への、さらなるニューメディアの対抗は、戦後にも起こる。

1951年、ラジオ局が一気に開局すると(NHK毎日放送朝日放送、TBS)、新聞社系の週刊誌『週刊読売』『週刊サンケイ』の創刊が続いた(ともに1952)。

 

テレビ局開局の動きが生まれるなかで、出版社系週刊誌『週刊新潮』(新潮社)が創刊される(1956)。

以降、『週刊アサヒ芸能』徳間書店『週刊女性』(河出書房*現・河出書房新社主婦と生活社『週刊実話』日本ジャーナル出版『週刊大衆』双葉社『女性自身』(光文社)『週刊現代』講談社『週刊文春』文藝春秋)『週刊コウロン』(中央公論社)と2年のあいだに出版社系の週刊誌が続々と創刊された。

全国に支社をもたない出版社系では、新聞社系との差別化により、グラビアやゴシップ色の強い誌面作りが特徴となった。

そのひとつが、皇太子(今上天皇)と初の民間の女性(正田美智子)とのご成婚(1959)を巡る記事だった。

週刊文春』の創刊号の表紙は正田美智子が飾り、『女性自身』は皇室記事によって、その売り上げを大きく伸ばしていく。

 

こうした雑誌メディアの増大は、写真家たちの仕事も広げていく。

映画雑誌『近代映画』(近代映画社)の女優のポートレイト撮影からそのキャリアを始めた写真家・秋山庄太郎は、『週刊文春』『週刊サンケイ』『週刊現代』の表紙を手がけていく。

 

広告出稿量は、新聞・雑誌・ラジオ・テレビのうち、一番のニューメディアだったテレビは、雑誌(1957)、ラジオ(1959)と順に抜いた。

 

 

*原典:

私家版『文芸メディア発展史~文芸家/写真家/編集者の追いかけっこ~』(2016年9月発行)

*主な参考資料:

永田雅一『映画自我経』(1957/平凡出版)

尾崎秀樹編著『プロデューサー人生 藤本真澄映画に賭ける』(1981/東宝出版事業部)

 

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筆者執筆参加。文芸家26名のポートレイトを収めた写真冊子『著者近影』(松蔭浩之撮影・デザイン/男木島図書館2016年4月発行)は、MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店(渋谷)、タコシェ(中野)、NADiff a/p/a/r/t(恵比寿)の店頭などにて、現在手にとって頂けます。

収録文芸家:
青山七恵/池井戸潤/池澤夏樹/冲方丁/大野更紗/金原ひとみ/京極夏彦/窪美澄/沢木耕太郎/篠田節子/高橋源一郎/滝口悠生/谷川俊太郎/俵万智/辻村深月/堂場瞬一/早見和真/平野啓一郎/穂村弘/三浦しをん/道尾秀介/本谷有希子/森村誠一/山田詠美/吉田修一/吉本ばなな