混乱する写真界の芥川賞
<第3章 メディア化する写真家と非文壇の形成>
---3 写真界の芥川賞と直木賞創設―――写真を選考する文芸家
木村伊兵衛写真賞の創設は、スムーズに進んだわけではなかった。
戦後、日本写真家協会(1950年創立)の初代会長を務め、権威となっていた木村は、戦後『アサヒカメラ』と専属契約も結んでいた。
木村の最初のまとまった仕事となった「ライカによる文芸家肖像写真展」(1933)の際、Qの名義で、当時朝日新聞で映画評論を手がけていた津村秀夫(池谷信三郎賞受賞)が紙面で紹介した関係からだった。
津村は、戦後『アサヒカメラ』の編集長となっており、津村に続いて編集長となった伴俊彦の時に、木村との専属契約を実現させた(1957)。
また、木村は、ニコンの社長・長岡正男と親しかったことからニコン愛用者の親善団体・ニッコールクラブで、長岡の後を受けて2代目会長も務めていた。
木村伊兵衛写真賞の受賞作に、ニコンサロン初出が多い結果はそのことによる。
けれども、第1回受賞作は、ミノルタ系のギャラリーで展示が行われた。
木村伊兵衛写真賞創設の際、朝日新聞社とニコンとで駆け引きがあり、ニコンが譲った経緯があった。
ミノルタ系ギャラリーでの展示には物言いがつき、以後、ニコンサロン初出が徹底されていくことになった。
*原典:
私家版『文芸メディア発展史~文芸家/写真家/編集者の追いかけっこ~』(2016年9月発行)
*主な参考資料:
岡井耀毅『肉声の昭和写真家 12人の巨匠が語る作品と現代』(2008/平凡社新書)
『アサヒカメラ』(1976~1983/朝日新聞出版)
岡井耀毅『昭和写真劇場』(2008/成甲書房)
筆者執筆参加。文芸家26名のポートレイトを収めた写真冊子『著者近影』(松蔭浩之撮影・デザイン/男木島図書館2016年4月発行)は、MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店(渋谷)、タコシェ(中野)、NADiff a/p/a/r/t(恵比寿)の店頭などにて、現在手にとって頂けます。
収録文芸家:
青山七恵/池井戸潤/池澤夏樹/冲方丁/大野更紗/金原ひとみ/京極夏彦/窪美澄/沢木耕太郎/篠田節子/高橋源一郎/滝口悠生/谷川俊太郎/俵万智/辻村深月/堂場瞬一/早見和真/平野啓一郎/穂村弘/三浦しをん/道尾秀介/本谷有希子/森村誠一/山田詠美/吉田修一/吉本ばなな