二枚目文芸家を角川書店の看板に

<第4章 映画時代の終焉/音楽産業の前景化>

---1 メディア間格差を狙え―――単行本と文庫、映画とテレビ

⑤―――二枚目・森村誠一を起用

 

さらに、『犬神家の一族』のヒットと『野性時代』でのジャンル間格差が応用される。

横溝正史の次として、森村誠一角川春樹は捉える。

 

森村は、青山学院大学卒業後、ホテルマンを経て文芸家に。

『高層の死角』(1969/講談社)で江戸川乱歩賞受賞。

松本清張登場以後、推理小説の拠点となっていた光文社から『新幹線殺人事件』(1970/光文社)を上梓し、日本推理作家協会賞受賞作となった『腐食の構造』(1973/毎日新聞社)も発表しており、その名を確立していた。

 

角川春樹は、森村を選んだ理由について、「作品の点数がそろっていたこと」「横溝と対極的な都会的な作家であること」「角川書店で全作品を独占できること」「キャンペーンに協力してくれること」に加えて、「容貌とか雰囲気が絵になる作家が望ましいこと」と述べている。

横溝との作風の違いに加えて、森村のポートレイトが大切だった。

 

こうして森村の作品が角川文庫化されていくと同時に、『野性時代』の連載では、森村誠一に力が入れられていく。

その森村の『野性時代』初出となったのが、棟居刑事シリーズ初登場作品となった「人間の証明」(1977)だった。

発表の同年、角川春樹制作総指揮のもと、東映で映画化(棟居役は松田優作)。

ジョー山中が歌う主題歌「人間の証明のテーマ」(作詞・ジョー山中、作曲・大野雄二、発売ワーナー・パイオニア)も効果的にもちいた。

この年、『人間の証明』は、ベストセラーの6位となった。

このとき、映画雑誌『バラエティ』も創刊している(1977-86)。

 

映画化の際、「母さん、僕のあの帽子、どうしたでしょうね」「読んでから見るか、見てから読むか」といったコピーを角川春樹自ら考え、文庫本の帯にも記した。

当時、「本をモノ扱いする」という批判もあったというが、角川春樹にとって文庫本は気軽に捨ててもよいものだった。

人間の証明』も、横溝作品と同じく、毎日放送系で、同時期にテレビドラマ化されている(棟居役は林隆三)。

 

松本清張は、『砂の器』(光文社)を発表して以来(1961)、長者番付の作家部門1位をほぼ独占してきた。

けれども、『人間の証明』が出版された年、1位を森村誠一、2位を横溝正史、3位に松本清張と、角川書店が力を注いだ二人が追い抜いた(1977)。

 

 

*原典:

私家版『文芸メディア発展史~文芸家/写真家/編集者の追いかけっこ~』(2016年9月発行)

*主な参考資料:

角川春樹『わが闘争 不良青年は世界を目指す』(2005/イーストプレス

 

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筆者執筆参加。文芸家26名のポートレイトを収めた写真冊子『著者近影』(松蔭浩之撮影・デザイン/男木島図書館2016年4月発行)は、MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店(渋谷)、タコシェ(中野)、NADiff a/p/a/r/t(恵比寿)の店頭などにて、現在手にとって頂けます。

収録文芸家:
青山七恵/池井戸潤/池澤夏樹/冲方丁/大野更紗/金原ひとみ/京極夏彦/窪美澄/沢木耕太郎/篠田節子/高橋源一郎/滝口悠生/谷川俊太郎/俵万智/辻村深月/堂場瞬一/早見和真/平野啓一郎/穂村弘/三浦しをん/道尾秀介/本谷有希子/森村誠一/山田詠美/吉田修一/吉本ばなな