野生時代新人文学賞から芥川龍之介賞へ

<第4章 映画時代の終焉/音楽産業の前景化>

---2 1979 メディア間の交代劇

④―――国際的版画家・池田満寿夫  芥川賞受賞者・映画監督デビュー

 

村上龍芥川龍之介賞を受賞した翌年、池田満寿夫が『エーゲ海に捧ぐ』(1977)で芥川賞を受賞する(受賞当時41歳)。

池田は、高校卒業後、独学で版画を始める。

東京国際版画ビエンナーレ展の入賞をきっかけに、ニューヨーク近代美術館で日本人初の個展を開催。

芸術家として話題の人物に(1965)。

渡米・渡欧後、ヴェネチア・ビエンナーレで、日本人として2人目(1人目は棟方志功)となる版画部門の国際大賞を受賞(1966)。

国際的に知られる芸術家となった。

 

エーゲ海に捧ぐ』は、ローマを舞台に、主人公の青年と3人の女性との愛欲の日々を描いた、池田の半自叙伝的な物語になっている。

野性時代』から依頼されて連載し、第3回野性時代新人文学賞を受賞したのがこの小説だった(1976)。

その翌年、芥川賞を受賞した(三田誠広「僕って何」と同時受賞)。

村上と同じく、池田も装丁を自ら手がけた単行本(角川書店)は、ベストセラーの7位(出版指標年報)を記録した。

 

1979年、池田が脚本・監督を手がけ、『エーゲ海に捧ぐ』は、映画公開される(製作は元・大映の製作主任・熊田朝雄)。

主演は、のちにポルノ女優チチョリーナとして有名となるイロナ・スターラ。

制作国はイタリアと日本。

映画の最後には、池田の何度目かの事実婚の女性となる佐藤陽子のバイオリン曲が流れた。

さらに、ジュディ・オングが歌う「エーゲ海のテーマ 魅せられて」(CBSソニー)が作られ、イロナ・スターラが登場するワコールの下着のCMにも利用されている。

 

「魅せられて」は、映画化の年、2年目を迎えたばかりのランキング形式の音楽番組『ザ・ベストテン』(TBS系)で最高位4位を記録。

レコード大賞(TBS系)も受賞。

ジュディ・オングは「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たしている(我々は、CBS・ソニーからレコードデビューした、天井桟敷のカルメン・マキを思い出すだろう)。

 

 

*原典:

私家版『文芸メディア発展史~文芸家/写真家/編集者の追いかけっこ~』(2016年9月発行)

*主な参考資料:

池田満寿夫『鳥たちのように私は語った 池田満寿夫対談集』(1977/角川書店

速水健朗『タイアップの歌謡史』(2007/洋泉社

 

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筆者執筆参加。文芸家26名のポートレイトを収めた写真冊子『著者近影』(松蔭浩之撮影・デザイン/男木島図書館2016年4月発行)は、MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店(渋谷)、タコシェ(中野)、NADiff a/p/a/r/t(恵比寿)の店頭などにて、現在手にとって頂けます。

収録文芸家:
青山七恵/池井戸潤/池澤夏樹/冲方丁/大野更紗/金原ひとみ/京極夏彦/窪美澄/沢木耕太郎/篠田節子/高橋源一郎/滝口悠生/谷川俊太郎/俵万智/辻村深月/堂場瞬一/早見和真/平野啓一郎/穂村弘/三浦しをん/道尾秀介/本谷有希子/森村誠一/山田詠美/吉田修一/吉本ばなな