非新聞社系『写真時代』創刊

<第4章 映画時代の終焉/音楽産業の前景化>

---3 非新聞社系写真雑誌創刊―――芸術のようなもの

これまで、新聞社系の週刊誌の後発として、出版社系の週刊誌の創刊ラッシュにもふれた。

新聞社系の写真雑誌の明暗がわかれていくなかで、新たな写真雑誌が誕生する。

①―――編集者・末井昭『写真時代』創刊と荒木経惟の神格化

 

土門拳賞の創設と同じ1981年、『写真時代』(白夜書房)が創刊される。

発行元の白夜書房は、明治時代から続く新聞社系でも、戦前、戦後直後に誕生した出版社でもなく、1970年代から流行し始めた、ビニール本、通称“ビニ本”の流れを組む出版社だった。

 

『写真時代』を立ち上げた編集長の末井昭は、写真家・荒木経惟を中心にすえ、雑誌を創刊した。

それ以前に発行していた映画雑誌『ウイークエンドスーパー』(セルフ出版*現・白夜書房)で荒木の写真連載が面白かったことからだったという。

末井は荒木の撮影した写真について、次のように述べる。

 

女の子の陰毛を剃ってその上から毛を描いたり、女の子の体に色を塗ったり、縛ったり、オシッコさせたりして、芸術のような写真を撮っていた。

この芸術のようなものというのが、面白かった。芸術になってしまったら、面白くないのだ。

 

『写真時代』は、結果、エロスとアートが渾然一体となった写真雑誌となった。

荒木のスタイルは、他のカメラマンに刺激を与え、直下型パンチラ写真、日本縦断ナンパ写真、ハメ撮りなどが開発されていったという。

 

荒木は、末井とのコンビによって、写真家として地位を作っていく。

『写真時代』が発禁処分をきっかけに廃刊になる1988年まで、白夜書房から続々と荒木の写真集は出版された。

『男と女の間には写真機がある』『劇写女優たち』『荒木経惟の偽ルポルタージュ』『荒木経惟の偽日記』『イコンタ物語』『ラブホテルで楽写』『センチメンタル・エロロマン 恋人たち』『愛の嵐』(写真時代文庫1)『ライブ荒木経惟』(『写真時代』9月号増刊)『少女世界』『ノスタルジアの夜』『景色1981-1984』(『写真時代』3月号増刊)『東京写真』(『写真時代』9月号増刊)『アラーキーの東京色情日記』(『写真時代』7月号増刊)『東京日記1981-1995』(『写真時代』5月号増刊)荒木陽子共著『酔い痴れて』などになる。

その多さは、木村伊兵衛林忠彦、田村茂が存命中に発表した写真集の少なさからすれば、神格化を起こすには充分な数だった。

 

また、膨大な数の写真集を出版していくなかで、荒木と文芸家たちとの共著も生まれていく。

田辺聖子対談『わが愛と性』(創樹社)桐島洋子伊藤比呂美らの対談集『ARA・KISSラブコール』(パルコ出版)(ともに1982)、中上健次との共著『物語ソウル』(パルコ出版小林信彦との共著『私説東京繁昌記』(中央公論社)(ともに1984)、鈴木いづみとの共著『私小説』(白夜書房/1986)、伊藤比呂美との共著『テリトリー論』(思潮社/1987)などがある。

こちらも荒木の神格化を起こすには充分な冊数だった。

 

このブロックの最後に、その後の荒木についてふれておきたい。

荒木は、1997年、『ダ・ヴィンチ』(1994年創刊)の依頼を受ける。

出版元は、リクルート出版から発展したメディアファクトリー(現・KADOKAWAグループ)。

創刊号の表紙には、「まったく新しい本の情報マガジン」のキャッチコピーが記され、グラフを中心とした総合文芸雑誌になる。

アイドルから俳優へと転身していた本木雅弘が飾った創刊号の表紙では、本木自身のセレクトで、ハンガリー出身のアゴタ・クリストフ悪童日記』(早川書房)が顔の前に掲げられた。

ダ・ヴィンチ』初代編集長・長薗安浩は、広告情報誌のリクルートが書籍広告市場に参入するとみなされ、出版社や文芸家の取材を当初断られたこと、本から入らない本の雑誌がコンセプトだったと振り返っている。

 

ダ・ヴィンチ』創刊3年目、荒木が託されたのが、巻頭企画のポートレイトだった。

アラーキーの裸ノ顔」と題された。

その初期を見ておこう。

第1回のビートたけし以後(1997年5月号)、王貞治原田芳雄山崎努中内功泉谷しげるジャイアント馬場、下中邦彦(元・平凡社社長)。

翌1998年は、市川染五郎、原俊夫(原美術館館長)、町田康旭鷲山野村萬斎、ボリス・ミハイロフ(写真家)、鮎川誠、沢田研二真田広之浅野忠信片岡鶴太郎、Charになる。

総合文芸雑誌であるが、ビートたけし町田康から、このとき、文芸のおかれた位置が浮かんでくるだろう。

荒木は、このとき、土門拳のスタイルに近い、モノクロ撮影で、男性がカメラを見つめる構図を選んでいる(1997-2014)。

 

荒木の写真連載とともに、誌面では「コミック・ダ・ヴィンチ」もスタートする。

第1回目は、山岸涼子のインタビューに、ちばてつやがイラストを描き下ろした。

アラーキーの裸ノ顔」は、その後、ダ・ヴィンチ創刊20周年記念事業として『男 アラーキーの裸ノ顔』(KADOKAWA メディアファクトリー)として写真集にまとめられ、同名の展覧会も開催された(2015/表参道ヒルズ)。

 

 

*原典:

私家版『文芸メディア発展史~文芸家/写真家/編集者の追いかけっこ~』(2016年9月発行)

*主な参考資料:

末井昭『パチプロ編集長 パチンコ必勝ガイド物語』(1997/光文社)

「歴代編集長が振り返る、雑誌「ダ・ヴィンチ」20年史」(2014)

 

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筆者執筆参加。文芸家26名のポートレイトを収めた写真冊子『著者近影』(松蔭浩之撮影・デザイン/男木島図書館2016年4月発行)は、MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店(渋谷)、タコシェ(中野)、NADiff a/p/a/r/t(恵比寿)の店頭などにて、現在手にとって頂けます。

収録文芸家:
青山七恵/池井戸潤/池澤夏樹/冲方丁/大野更紗/金原ひとみ/京極夏彦/窪美澄/沢木耕太郎/篠田節子/高橋源一郎/滝口悠生/谷川俊太郎/俵万智/辻村深月/堂場瞬一/早見和真/平野啓一郎/穂村弘/三浦しをん/道尾秀介/本谷有希子/森村誠一/山田詠美/吉田修一/吉本ばなな