文芸冊子に現代美術家が入り込む

<第5章 そして作家が消えた>

 ---2 写真家も消えた―――美術家であり写真家であり…

②―――現代美術家/写真家・松蔭浩之と元音楽家芥川賞受賞者

 

2005年、文芸雑誌『早稲田文学』早稲田文学会)がリニューアルされる。

同時に、『早稲田文学』の編集者・市川真人の主導によって、フリーペーパー版『WB』が創刊される。

このとき、美術家であり写真家の松蔭浩之が起用された。

 

松蔭は、篠山紀信に憧れ、写真家を志す。大阪芸術大学・写真学科在学中、森村泰昌の撮影アシスタントを務め、森村のセルフポートレイト写真作品の撮影も担当した。

1990年には、森村に続いて、ヴェネチア・ビエンナーレのアペルト部門に、アートユニット“コンプレッソ・プラスティコ”として選出される。

当時24歳での出品は、世界最年少だったという。

 

以後、松蔭は、現代美術家としての活動と写真家としての活動を平行して行う。

そのひとつに、デヴィッド・ボウイのアルバム『Heroes』に自身が入り込んだセルフポートレイト写真作品がある。

名画に入り込む森村の弟子所以だろう。

(ボウイの『Heroes』のジャケット撮影は鋤田正義。寺山修司の映画『書を捨てよ、町へ出よう』の撮影監督も務めた鋤田は、70年代初頭にイギリスへわたり、当時台頭してきたグラムロックミュージシャンの撮影に成功。以後、ロック写真家のスタイルを生み出してく)

 

その後も、松蔭は、ギャラリーで創作楽器などをもちいてコンサートを行うアートロックユニット“ゴージャラス”を結成。

観客の声に反応してロックコンサートのステージ体験が味わえるインスタレーション「STAR」など、ロックをモチーフとした作品を数多く発表している。

 

松蔭は、『WB』において、写真連載ページを託される。

女性モデルを用いた写真を掲載したのち、文芸家の撮り下ろし企画が始まる。

その最初が、このフリーペーパーで実質の小説家デビューとなった川上未映子だった。短編「感じる専門家 採用試験」(2006)とともに掲載された。

川上は、『WB』に掲載される4年前、音楽家としてすでにビクターエンタテインメントからメジャーデビューを果たしていた。

3枚のCDアルバムを発表し、そのすべてが本人のポートレイトのジャケットとなっている。

「感じる専門家 採用試験」掲載号では、松蔭の撮影による川上のポートレイトが表紙を飾り、紙面内では、野外で撮影された撮り下ろしショットが掲載された。

 

それから2年後の2008年、川上は、『文學界』に掲載された「乳と卵」で芥川龍之介賞を受賞する。

その後、詩の朗読会で、松蔭はドキュメント写真を担当し、その一枚は本人の公式写真となった。

芥川賞受賞をきっかけに川上を密着撮影したドキュメンタリー番組『情熱大陸』(TBS系)が放送された際、そのポートレイトがもちいられた。

 

また、『WB』の創刊号では、モブ・ノリオの短編が掲載されている。

モブは、前年に『文學界』に掲載された「介護入門」で芥川賞を受賞。

大阪でスカム・ロックバンドの一員として活躍したのち、小説家としてデビューを果たした。

 

芥川賞を受賞してから5年後の2009年、モブは、『JOHNNY TOO BAT 内田裕也』(文藝春秋)を発表する。

モブの2作目で、書き下ろしとなる長編小説「ゲットー・ミュージック」とロック・ミュージシャン内田裕也がかつて雑誌で行った対談とを合冊した本だった。

このとき、松蔭がモブの撮り下ろしポートレイトを撮影。

内田裕也の対談サイドも、松蔭が内田のポートレイトを撮り下ろし、ともに表紙を飾っている。

松蔭は、ポートレイトを通してロックのイメージを増幅させた。

 

このブロックの最後に、その後の『早稲田文学』についてふれておきたい。

早稲田文学』は、第10次の復刊準備号に掲載した川上未映子「わたくし率イン歯ー、または世界」が芥川賞候補に。

川上の芥川賞受賞後となった復刊1号(2008)では、表紙となった川上を篠山紀信が撮影している。

以後、篠山が表紙とグラビアを手がけていく。

グラビアは不定期刊行から季刊となった際、「Kishin×WB」と称され、編集委員は、東浩紀角田光代川上未映子・藤井光・ヤマザキマリ堀江敏幸市川真人となった。

 

そして、松蔭浩之は、『女性自身』の新刊紹介ページにて、文芸家のポートレイト撮影を始めている(2011-)。

 

 

*原典:

私家版『文芸メディア発展史~文芸家/写真家/編集者の追いかけっこ~』(2016年9月発行)

*主な参考資料:

『WB』早稲田文学会)

川上未映子『乳と卵』(2008/文藝春秋

モブ・ノリオ『介護入門』(2004/文藝春秋

モブ・ノリオ『JOHNNY TOO BAD内田裕也』(2009/文藝春秋

 

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筆者執筆参加。文芸家26名のポートレイトを収めた写真冊子『著者近影』(松蔭浩之撮影・デザイン/男木島図書館2016年4月発行)は、MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店(渋谷)、タコシェ(中野)、NADiff a/p/a/r/t(恵比寿)の店頭などにて、現在手にとって頂けます。

収録文芸家:
青山七恵/池井戸潤/池澤夏樹/冲方丁/大野更紗/金原ひとみ/京極夏彦/窪美澄/沢木耕太郎/篠田節子/高橋源一郎/滝口悠生/谷川俊太郎/俵万智/辻村深月/堂場瞬一/早見和真/平野啓一郎/穂村弘/三浦しをん/道尾秀介/本谷有希子/森村誠一/山田詠美/吉田修一/吉本ばなな