集英社発 小説+漫画⇒文芸・イラスト・匿名
<第5章 そして作家が消えた>
---1 ポートレイトも消えた―――覆面作家続々と
②―――『ジャンプノベル』その後 5人の乙一
『ジャンプノベル』以後は、何が起こったのか?
文芸の流れ、イラストの流れ、そして、匿名の流れになる。
村山由佳は、ジャンプ ジェイブックスから、歴史ある文芸へと展開していく。
ジャンプ ジェイブックスからは、『ジェンプノベル』に掲載した『もう一度デジャ・ヴ』『おいしいコーヒーの入れ方』(ともにイラスト志田正重)シリーズ(1993)を刊行。
「春妃〜デッサン」(単行本時『天使の卵 エンジェルス・エッグ』)は、小説すばる新人賞(主催・集英社)を受賞した(1993)。
翌年、『天使の卵』は、NHK-FM『青春アドベンチャー』でラジオドラマ化された。
村山は、2000年頃まで、集英社を主な拠点したのち、『別冊文藝春秋』に連載した「星々の舟」で直木三十五賞を受賞した(2003/文藝春秋)。
もう一つの流れを見よう。
『ジャンプノベル』廃刊にあたり、ジャンプ小説・ノンフィクション大賞も終了した。
以後、現在のジャンプ小説大賞~ジャンプ小説新人賞に。
このとき、イラストレーター部門が誕生した(しかし2013年廃止)。
三つの目の流れは、乙一になる。
乙は、「夏と花火と私の死体」でジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞した(1996)。
出版時は17才だった。
その後、村山と同じく2000年頃まで、ジャンプ ジェイブックスと集英社の文芸で活動するが、角川書店、幻冬舎、講談社などへ展開していく。
同時に乙は、“山白朝子”・“中田永一”という別名義による小説を発表。
講談社ノベルス・電撃文庫(KADOKAWA アスキー・メディアワークス)・メディアワークス文庫(KADOKAWA アスキー・メディアワークス)をまたにかける覆面作家“越前魔太郎”の一人としても活動する。
さらに本名の安達寛高で、学生時代から活動していた自主映画の監督作品も発表している。
当初、“山白朝子”・“中田永一”の正体は不明だったが、中田永一名義の『くちびるに歌』(小学館)が小学館児童出版文化賞に選ばれた際、「出版社が宣伝しにくそうで申し訳ない」という理由から自ら公表。
乙が贈呈式に出席した(2012)。
乙は、覆面作家を続けた理由について、「いろいろ理由はあるのですが、一つは心のバランスをとるため。一から出直したいという気持ちがあったから」「過大評価されているようで、持ち上げられている感じがよくないと思った。誰も知らないところで、しばらく隠れようということでした」と述べている。
その後、乙一・中田永一・山白朝子・越前魔太郎・作品解説を安達寛高によるアンソロジー『メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション』(2016/朝日新聞出版)を発表している。
*原典:
私家版『文芸メディア発展史~文芸家/写真家/編集者の追いかけっこ~』(2016年9月発行)
*主な参考資料:
「乙一さん:人気作家、小学館児童出版文化賞贈呈式で別名義の活動認める」(毎日新聞 2012年11月20日 東京夕刊)
筆者執筆参加。文芸家26名のポートレイトを収めた写真冊子『著者近影』(松蔭浩之撮影・デザイン/男木島図書館2016年4月発行)は、MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店(渋谷)、タコシェ(中野)、NADiff a/p/a/r/t(恵比寿)の店頭などにて、現在手にとって頂けます。
収録文芸家:
青山七恵/池井戸潤/池澤夏樹/冲方丁/大野更紗/金原ひとみ/京極夏彦/窪美澄/沢木耕太郎/篠田節子/高橋源一郎/滝口悠生/谷川俊太郎/俵万智/辻村深月/堂場瞬一/早見和真/平野啓一郎/穂村弘/三浦しをん/道尾秀介/本谷有希子/森村誠一/山田詠美/吉田修一/吉本ばなな