「闘うイラストーリー・ノベルスマガジン」から「闘うコミックマガジン」へ

<第5章 そして作家が消えた>

---1 ポートレイトも消えた―――覆面作家続々と

⑤―――講談社発『コミックファウスト』『パンドラ』創刊

 

2006年、太田克史は、『コミックファウスト』を刊行する。

母体となった『ファウスト』創刊号の表紙には「闘うイラストーリー・ノベルスマガジン」と掲げられたが、『コミックファウスト』には「闘うコミックマガジン」のキャッチコピーが表紙に記された。

直訳すれば、「漫画雑誌」になる。

 

誌面では、西尾維新の「放課後、七時間目。」を原作とし、同人誌出身の高河ゆんが漫画化。

西尾が、同人誌出身の女性漫画家集団CLAMPが『週刊ヤングマガジン』(講談社)で連載していた漫画『XXXHOLiC』をノベライズする試みを行った。

このとき、舞城王太郎は漫画「ぬるつべピリリ」を手がけている。

また、太田が同時に進めていた、海外との取り組みの成果として、台湾のVOFAN、香港の門小雷、韓国のパク・ソンウの漫画を掲載している。

 

同年、太田は、新設された海外文芸部から、台湾版と韓国版の『ファウスト』も刊行。

国内ではエッジでありながら世界中にファンがいると太田が語る香港の映画監督ウォン・カーウァイの方法論を目指したいと語った。

さらに同年、装丁を箱入りに統一した新レーベル・講談社BOXを創刊した。

 

以後、『ファウスト』そのものは停滞するが、このとき、太田は、講談社の本社を離れ、近くの雑居ビルに、編集部を立ち上げている。

小規模な体制をとり、印刷業者との修正時間のロスを短縮すべくDTPオペレーターの配置を行った。

 

講談社BOXは、新刊を刊行する一方で、講談社BOX新人賞流水大賞”を創設する(第2回メフィスト賞受賞者・清涼院流水に由来する)。

「小説」「イラスト」「批評・ノンフィクション」の3部門を設けた。

 

さらに、北田ゆう子(講談社BOX編集部)が編集長となり、講談社BOXマガジン『パンドラ』を創刊する(2008)。

表紙には「思春期の自意識を生きるシンフォニー・マガジン」「文芸と批評とコミックが「交差(クロスオーバー)」する」とキャッチコピーが掲げられた(現在全4巻)。

流水大賞の掲載媒体ともなった。

 

全7回となった受賞者を見ておこう。

小柳粒男(優秀賞)②泉和良(優秀賞)・梓(優秀賞)③黒乃翔(優秀賞)・天原聖海(優秀賞)④受賞者なし⑤鏡征爾(大賞)⑥岩城裕明(優秀賞)・辻鷹佑(優秀賞)⑦至道流星(大賞)・杉山幌(大賞)・ウノサワスバル(大賞)

受賞者のほとんどがポートレイトを公表していない。

第7回以後は、講談社BOX新人賞“Powers”と変更され、批評・ノンフィクション部門は消滅(2009)。

名称変更にあわせ、講談社BOXの新レーベル“POWER BOX”を新設する。“Powers”は、その後、イラスト部門も消滅したのち、メフィスト賞に統合された(2014)。

 

太田は、2010年、講談社の子会社・星海社へ移動。

ファウスト』は、奈須きのこ(ポートレイトは公表されていない)らを推し、宇山へのアンサーといえる“新伝綺”の提唱を行ったりもしたが、最新号は2011年に出たVol.8となっている。

 

 

*原典:

私家版『文芸メディア発展史~文芸家/写真家/編集者の追いかけっこ~』(2016年9月発行)

*主な参考資料:

渡辺浩弐『ひらきこもりのすすめ2.0』(2007/講談社BOX

季刊 島田荘司 on line「島田荘司のデジカメ日記 第244回」

季刊 島田荘司 on line「島田荘司のデジカメ日記 第280回」

 

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筆者執筆参加。文芸家26名のポートレイトを収めた写真冊子『著者近影』(松蔭浩之撮影・デザイン/男木島図書館2016年4月発行)は、MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店(渋谷)、タコシェ(中野)、NADiff a/p/a/r/t(恵比寿)の店頭などにて、現在手にとって頂けます。

収録文芸家:
青山七恵/池井戸潤/池澤夏樹/冲方丁/大野更紗/金原ひとみ/京極夏彦/窪美澄/沢木耕太郎/篠田節子/高橋源一郎/滝口悠生/谷川俊太郎/俵万智/辻村深月/堂場瞬一/早見和真/平野啓一郎/穂村弘/三浦しをん/道尾秀介/本谷有希子/森村誠一/山田詠美/吉田修一/吉本ばなな