芥川龍之介 ポップスターになる

<第1章 文芸家ポートレイト/文学賞事始>

 ---1 “円本”登場 文芸家をキャラ化

③――――全国各地で文芸家がPR  ポップアイコン・芥川龍之介誕生

 

『現代日本文学全集』(“円本”)の刊行が開始され始めた翌年の1927年、文芸家たちは、改造社主催の講演会を、全国各地にわかれて行う。

 

講演を、早い順に見ていこう。

東北・北海道エリアの芥川龍之介と里見弴ら。

九州エリアの佐藤春夫武者小路実篤ら。

関西エリアの久米正雄横光利一ら。

信州エリアの前田河広一郎・葉山嘉樹ら。

山陽エリアの有馬生馬・新居格ら。

関東エリアの田中純・国木田虎雄ら。

四国エリアの富田砕花・片上伸らだった。

芥川が最初だった。

 

講演会では、『現代日本文学巡礼』(1927)と題されたモノクロサイレント映画(41分)も流された。

監督を久米正雄(芥川と同期で夏目漱石が学んだ東京帝国大学・英文科卒。夏目の弟子)が務めた。

映画には、芥川を含む10名以上の文芸家の日常生活(徳富蘇峰広津柳浪・和郎の父子、岡本綺堂久米正雄上司小剣芥川龍之介佐藤春夫、藤森成吉、小山内薫武者小路実篤菊池寛徳田秋声山田順子のカップル、近松秋江)、改造社の新人編集者・水島治男が久米正雄と故人の墓地を訪ねる姿が収められた(尾崎紅葉有島武郎国木田独歩夏目漱石島村抱月)。

ここでも、『現代日本文学全集』と同じく文芸家が並置された。

 

(『現代日本文学全集』の主な収録順は、1,明治開花文学、2,坪内逍遥、3,森鴎外、4,徳富蘇峰、5,三宅雪嶺、6,尾崎紅葉、7,広津柳浪・川上眉山斎藤緑雨、8,幸田露伴、9,樋口一葉・北村透国、10,二葉亭四迷、15,国木田独歩、18,徳田秋声、19,夏目漱石、26,武者小路実篤、27,有島武郎・有島生馬、28,島村抱月生田長江・中澤臨川・片上伸・吉江孤雁、29,里見弴・佐藤春夫、30,芥川龍之介、31,菊池寛、32,近松秋江久米正雄など)

 

映画には、麦わら帽子をかぶってたばこを吸う、さながら俳優のような芥川の姿が収められ、上映地で見ることができた。

この時期、映画の興隆、東京放送局(現・NHKラジオ)がラジオ放送を開始する(1925)など、ニューメディアが身近な存在になり始めていた。

 

また、改造社の講演会期間中、芥川は、私的に新潟高等学校を訪れる。

学校で講演会を行った際、あごに左手をやり、流し目をしたポートレイトが撮影されている。

芥川といえば、我々が頭に思い浮かべるであろう、あの写真になる(撮影者不明)。

 

こうしたPR活動もあって、『現代日本文学全集』(“円本”)は売れた。

すでに、『受難者』(1916)の江馬修と『地上』(1919)の島田清次郎の、ともに新潮社から現在の言葉でいうベストセラー文芸家が誕生していたが、徳田秋声谷崎潤一郎は印税で家を建てるなど、文芸で食えるようになっていく。

 

“円本”ブームのなかで創刊された全60巻にも及んだ『現代大衆文学全集』(1927~1932/平凡社)の内容見本(パンフレット)では、掲載文芸家の顔写真をすべて掲載したPRが行われるなど、文芸家の顔が大いに知られて行くことになっていく。

 

こうしたなか、当時新刊の初版が2千部と少なかった芥川も恩恵を受けたが、1週間にわたって各地で行った講演については、「講演にはもう食傷した。当分はもうやる気はない」と記している

 

 

*原典:

私家版『文芸メディア発展史~文芸家/写真家/編集者の追いかけっこ~』(2016年9月発行)

*主な参考資料:

庄司達也・中沢弥・山岸郁子編『改造社のメディア戦略』(2013/双文社)

猪瀬直樹『マガジン青春譜』(1998/小学館

『筑摩全集類聚 芥川龍之介全集 第四巻』(1971/筑摩書房

白井喬二『さらば富士に立つ影 白井喬二自伝』(1983/六興出版) 

 

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筆者執筆参加。文芸家26名のポートレイトを収めた写真冊子『著者近影』(松蔭浩之撮影・デザイン/男木島図書館2016年4月発行)は、MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店(渋谷)、タコシェ(中野)、NADiff a/p/a/r/t(恵比寿)の店頭などにて、現在手にとって頂けます。

収録文芸家:
青山七恵/池井戸潤/池澤夏樹/冲方丁/大野更紗/金原ひとみ/京極夏彦/窪美澄/沢木耕太郎/篠田節子/高橋源一郎/滝口悠生/谷川俊太郎/俵万智/辻村深月/堂場瞬一/早見和真/平野啓一郎/穂村弘/三浦しをん/道尾秀介/本谷有希子/森村誠一/山田詠美/吉田修一/吉本ばなな