角川書店発の小説家

<第4章 映画時代の終焉/音楽産業の前景化>

---1 メディア間格差を狙え―――単行本と文庫、映画とテレビ

④―――文芸雑誌『野性時代』創刊  小説家を作れ

 

角川書店による新しい本の売り方は、新しい文芸雑誌作りにももちいられた。

角川春樹が社長に就任する前年、角川書店は、文芸雑誌『野性時代』(現・『小説 野性時代』)を創刊する(1974)。

角川創立30周年の年にあたった。

編集長を角川春樹自身が務め、新たな誌面作りが行われた。

 

まず、角川春樹自身による、「魏志倭人伝」に基づいて朝鮮半島から北九州を船・野性号で横断する試みと連動していた。

先行する試みには、石原慎太郎のラビット・スクーターでの南米1万キロ横断(1960)、堀江謙一のヨットで単独太平洋横断(1962)などがある。

デザイン面では、資生堂、パルコの広告デザインとして一世風靡をしていたアート・ディレクター石岡瑛子を起用した。

 

創刊にあわせて、角川小説賞・日本ノンフィクション賞・野性時代新人文学賞を創設する。

角川小説賞は、角川から出版されたものを対象に。

野性時代新人文学賞は、『野性時代』に掲載されたものを対象に。

日本ノンフィクション賞のみ、自社商品にとらわれない賞だった(現在、この3つの賞はない)。

 

この雑誌の創刊以前までは、映画原作本の翻訳やノベライズ、他社の単行本のヒット作の文庫化などで、角川書店は、オリジナルの小説を取り扱っていなかったという。

そこで、角川春樹は、ジャンル間格差を利用していく。

小説は書いてはいないものの、すでに文筆では名が出ており、小説を書けるであろう人物に声をかける。

翻訳家でエッセイストだった片岡義男、国際的に活躍していた版画家で雑誌のエッセイが好評だった池田満寿夫、戯曲家のつかこうへいらに『野性時代』で小説を書かせた。

我々は、『中央公論』の滝田樗陰と村松梢風『海』の吉田好男と加納典明を思い出すだろうが、角川春樹は片岡と池田に自社主催の賞を受賞させている。

第1回の谷克二に続いて、片岡は第2回、池田は第3回の野性時代新人文学賞を受賞している。

 

 

*原典:

私家版『文芸メディア発展史~文芸家/写真家/編集者の追いかけっこ~』(2016年9月発行)

*主な参考資料:

角川春樹『わが闘争 不良青年は世界を目指す』(2005/イーストプレス

見城徹『編集者という病い』(2007/太田出版

見城徹『異端者の快楽』(2008/太田出版

 

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筆者執筆参加。文芸家26名のポートレイトを収めた写真冊子『著者近影』(松蔭浩之撮影・デザイン/男木島図書館2016年4月発行)は、MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店(渋谷)、タコシェ(中野)、NADiff a/p/a/r/t(恵比寿)の店頭などにて、現在手にとって頂けます。

収録文芸家:
青山七恵/池井戸潤/池澤夏樹/冲方丁/大野更紗/金原ひとみ/京極夏彦/窪美澄/沢木耕太郎/篠田節子/高橋源一郎/滝口悠生/谷川俊太郎/俵万智/辻村深月/堂場瞬一/早見和真/平野啓一郎/穂村弘/三浦しをん/道尾秀介/本谷有希子/森村誠一/山田詠美/吉田修一/吉本ばなな