モデル小説家を造る

<第5章 そして作家が消えた>

---1 小説家が消えた―――キャラクターから始まる文芸の加速

②―――後発・マガジンハウス発  モデル小説家・椎名桜子の登場

 

椎名桜子は、少女時代にモデルの経験を持つ。

成城大学在学中の22歳になった、1988年、『家族輪舞曲(ロンド)』(マガジンハウス)で小説家デビューする。

学生時代に書いた80枚の小説が元だったという。

当時、芥川龍之介賞最年少受賞は、丸山健二石原慎太郎大江健三郎の23歳であり、22歳には特別な意味があった。

 

『家族輪舞曲』では、愛人のいる父親とそれを見てみぬふりをする母親とのあいだで暮らす、17歳の少女の心の機微が描かれた。

単行本の表紙は、桜自身のロングショットのモノクロポートレイトが飾り、見返しには、衣装の情報が記された。

 

スタイリスト 野口佳香 

ヘア&メイクアップ 宮崎隆行 

撮影 磯谷良行 

ワンピース¥42,000/プーダドゥーゼ 03・475・0511/

シャツ¥15,000/カミングスーン 03・479・2027

 

こうした都市風俗を強調した試みは、田中康夫文藝賞受賞作『なんとなく、クリスタル』(『文藝』初出/1980/河出書房新社)の先行が思い起こされるだろう(単行本化の翌年ベストセラーの2位。松竹が松原信吾監督で映画化。サントラ盤はCBSソニー)。

『家族輪舞曲』では、さらに丁寧に、衣装を提供した店舗の電話番号も掲載されている。

 

椎名は、小説家デビューした年、ワープロのCMに出演。

ワープロで小説を書く学生作家」と表記された。

『家族輪舞曲』は、翌年、映画化され(配給・東映クラシックフィルム)、椎名は脚本・監督も務めた。

さらにこの年、栄養食のCMに出演。

映画撮影の様子がもちいられ、「映画監督」と表記された。すでに見てきたように、自身の小説を、自ら監督を務め、映画化することは、石原慎太郎村上龍池田満寿夫などと同様の例になる。

 

被写体であったモデルが小説を書く。

すでに『月刊カドカワ』でもふれたが、そこで浮かび上がる事柄には、マガジンハウスにおいて、先行事例がある。

 

『家族輪舞曲』発行元のマガジンハウスは、女性ファッション雑誌『an・an』(1970年創刊)の発行元になる。

フランスの女性雑誌『ELLE』日本版として創刊された『an・an』では、思想家・吉本隆明が、ファッションブランド、コム・デ・ギャルソンを着る誌面「現代思想界をリードする吉本隆明の「ファッション」」を制作した(1984)。

このページについて、思想家・埴谷雄高が「「ぶったくりの商品」のCM画像に(引用者中略)吾国の高度資本主義は、まことに「後光」が射す思いを懐いたことでしょう」と物言いをつけた。

この論争に深くは立ち入らないが、この記事を掲載した前年、『an・an』の版元は、平凡出版からマガジンハウスとカナタカに変更。

平凡社の看板雑誌だった男性雑誌『平凡パンチ』は、その4年後に廃刊している(1988)。

 

その廃刊の年に、入れ替わるように女性雑誌『Hanako』を創刊し、マガジンハウス初の書籍部門への取り組みが始まった。

その最初期の文芸が、秋元康椎名誠林真理子に続く、椎名桜子の小説『家族輪舞曲』だった。

椎名の一連の動きは、当時、椎名の事務所の社長・六塔智美とともにマガジンハウス副社長・甘糟章が手がけた。

 

その直前、先行する動きがあった。

椎名の小説出版と同年、吉本隆明の娘・吉本ばななが『キッチン』(福武書店)で、日本大学芸術学部卒業直後、23歳で小説家デビューする。

初出は、福武書店(現・ベネッセコーポレーション)の文芸雑誌『海燕』(『文藝』から移り寺田博が1982年創刊)で、前年、海燕新人文学賞を受賞していた。

祖母に育てられた孤独な女子大学生が、知人で、妻の死後に性転換した父とその息子の家で暮らすこの物語は、単行本化の翌年、ATG出身でもある森田芳光監督で映画化された(製作・光和インターナショナル。配給・松竹)。

 

この年、ベストセラー(出版指標年報)は吉本一色となる。

1位『TUGUMI』中央公論社)2位『キッチン』福武書店)5位『白河夜船』福武書店)6位『うたかた/サンクチュアリ』福武書店)7位『哀しい予感』角川書店)と、ずらりと吉本作品が並んだ。

吉本は、その後も、多数の小説を発表している。

イタリア人のジョルジョ・アミトラーノ翻訳のイタリア語版「Kitchen」(1991/フェルトリネッリ)から火がつき、世界各国でも翻訳されていく。

一方、椎名は、『家族輪舞曲』に続いて、マガジンハウスから『おいしい水』(1990)発表後は、小説は発表していない。

 

このブロックの終わりに、再び『月刊カドカワ』についてふれておきたい。

月刊カドカワ』では、写真家・横山正美がポートレイト撮影を手がけた。

元・日本航空国内線の客室乗務員から写真家に転身。

NHK教育テレビ日曜美術館』では司会も行っていた。

横山は、『月刊カドカワ』において、各界の夫婦72組のカラーポートレイト、村松友視の文を添えた著名人26名のモノクロポートレイトを手がけた(1989-91)。

 

 

*原典:

私家版『文芸メディア発展史~文芸家/写真家/編集者の追いかけっこ~』(2016年9月発行)

*主な参考資料:

 椎名桜子『家族輪舞曲(ロンド)』(1988/マガジンハウス)

埴谷雄高「政治と文学と・補足 吉本隆明への最後の手紙」『海燕』(1985/福武書店

椎名桜子を育てた六塔智美(モダンタイムス社長)独占インタビュー」(『週刊テーミス』1990年4月4日号)

椎名桜子『おいしい水』(1989/マガジンハウス)

 

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筆者執筆参加。文芸家26名のポートレイトを収めた写真冊子『著者近影』(松蔭浩之撮影・デザイン/男木島図書館2016年4月発行)は、MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店(渋谷)、タコシェ(中野)、NADiff a/p/a/r/t(恵比寿)の店頭などにて、現在手にとって頂けます。

収録文芸家:
青山七恵/池井戸潤/池澤夏樹/冲方丁/大野更紗/金原ひとみ/京極夏彦/窪美澄/沢木耕太郎/篠田節子/高橋源一郎/滝口悠生/谷川俊太郎/俵万智/辻村深月/堂場瞬一/早見和真/平野啓一郎/穂村弘/三浦しをん/道尾秀介/本谷有希子/森村誠一/山田詠美/吉田修一/吉本ばなな